事例紹介

老舗酒蔵のDX ~Google Workspace & IoT~

提供:合資会社基山商店

RYO-FU BASEでは、県内企業に対するDXの取り組みの一環として、DXアクセラレータとして伴走することで、経営課題の整理やその解決への取組の企画立案を支援しており、最終的には、企業自らが自走して DX を進めることができるようになることを目指しています。 今回は、合資会社基山商店の取り組みについて、インタビューしました。

左:濵﨑さん(蔵人) 右:小森さん(杜氏) 

DXに取り組んだ背景

まずは御社の企業概要を教えてください。
基山商店は、佐賀県基山町で100年以上続く酒蔵で、「基峰鶴」という銘柄を醸造しています。基峰鶴は、地元で収穫された良質な米と九千部山と基山の伏流水を活用し、品質にこだわって酒造りをしています。
ありがたいことに、全国新酒鑑評会金賞やフランスの「Kura Master」、世界的な「International Wine Challenge(IWC)」などで数多くの賞を受賞し、国内外で高く評価いただいています。
現在の販路としては、全国の中小規模の酒類小売店、飲食店、卸業者、韓国・フランスへ輸出などがあります。

本事業でDXに取り組む以前に、感じていた課題はありましたか?
はい、通年製造に伴う製造記録の管理方法の見直しが課題でした。基山商店では、日本酒の醸造が冬に集中するため、業務の偏りが大きく、冬場はほぼ休みが取れず、複数の作業を詰め込む状況が続いていました。
この解決策として、2024年から通年製造を計画しました。しかし、暑い時期の醸造では、温度管理や発酵状態の把握がより重要になり、加えて、責任者が出張中でももろみの状態を把握できる手段が必要でした。
従来、製造記録はノートや手書きメモ、LINEトークに分散し、必要な情報を探すのに手間がかかり、転記の手間や人的ミスも発生していました。少人数で業務を回すため、記録作業の負担を減らしたいものの、
情報の整理が難しく、業務の効率を妨げていました。
また、温度管理・品質管理・販売管理などの業務は紙や手作業が中心で、データの一元管理ができず、外出先からは蔵の状況を確認する手段もありませんでした。こうした課題を解決するため、製造記録のデジタル化と一元管理が不可欠であり、業務効率化に向けたDXの導入が求められていました。

課題解決に向けた取り組み

本事業で取り組んだことを教えてください。
IoTやGoogleツールを活用し、安価に温度・帳票・作業管理をすべてデジタル化しました。
まず、温度管理の自動化として全タンクにIoT機器「おんどとりJr.」を導入。おんどとりWeb Storage APIとGoogle Apps Scriptを用いて、温度データをリアルタイムでGoogleスプレッドシートに自動記録し、定期的にGoogle Chatで報告。杜氏が出張中でもリアルタイムに状況を把握し指示が出せるようになりました。さらに、温度異常があればGoogle Chatへ即時通知できるシステムを構築しました。従業員が現場へ行かずに状況を把握できるようになり、さらに24時間温度を記録できるようになったことで、異常時にも履歴を見て迅速な対応が可能になりました。
次に、紙の帳票管理からの脱却を図るため、これまで使えていなかった「三酒の神器」の本格運用を開始。マスタを整理・統一し、Googleサービスなども併用して生産記録をすべてデジタル化しました。さらに、これまでバラバラだった販売管理と生産管理のマスタを統一し、生産から販売までデータの連携が可能になり、業務の見える化と効率化を実現。さらに、Googleカレンダーを活用することで、日々の作業スケジュールや実績をチーム全体で共有し、業務の標準化と負担軽減につなげました。
さらに、Googleフォームを勤怠管理や商品受付などでも応用利用し、紙からの転記時間を短縮。限定販売時にはSTORESを導入してオンラインチケット販売ができるようにするなど、これまで手間と時間がかかっていた作業を省力化する検討を進めています。

DXに挑戦して良かった点、苦労した点を教えてください。
とにかく、圧倒的に楽になりました。毎日1時間半かかっていた朝の作業が40分で終わるなど、組織全体で週15時間以上は効率化できたのではないかと考えています。通年製造にも成功し、仕事が1年を通して平準化されたおかげで、毎週の作業がルーチン化され、冬でも週1~2日休めるようになりました。いままでの方法では考えられないことでした。
楽になったことは色々ありますが、たとえば、温度記録を自動化し、すべての作業情報をGoogleカレンダーに入れたことで、ノートからの転記が不要になっただけでなく、検索機能を使えば必要な情報が必要な時に一瞬で引き出せるようになりました。
特に、夏製造で温度管理の重要度が上がりましたが、温度の自動記録や自動でのチャット共有、異常時の警報チャットなど、どこにいてもリアルタイムで状況を確認できるようになりました。今までは現場に行かないと分からなかったことが、外からでも見られるようになり、例えば杜氏が外出する場面でも現場とのコミュニケーションがスムーズになりました。
また最高温度に何時に到達したかを知りたいときなど、昔は蔵に泊まり込みで、今でも夜に何度も蔵を往復する必要がありましたが、導入によって、家からチェックできるだけでなく翌日に正確なデータを確認できるようになり、夜も安心して眠れるようになりました。
こんなエピソードがありました。外気温が低い日に、ときどき冷蔵庫が突然加温するという望ましくない動きをすることがあったのですが、ずっとその根本的な理由が分からずにいました。今回、24時間の温度記録を取り始めたおかげでその原因が分かり、すぐにメーカーが対応してくれました。長年の謎がこんなにあっさり解決するなんて(笑)
また外部に勉強会に参加した際も、社内で資料を共有できるようになりました。結果として日々の記録、研修資料など、組織として「資産」を蓄積ができるようになったことは大きな前進です。
苦労した点は、最初に社内に散らばったデータを収集し、過去データをシステムに入力したこと、そしてマスタを整理したことです。昨年の夏、かなりの時間を使って整理しました。
あと、一度DXを始めると、「あれもできるのでは?」「もっとできるのでは?」と、どんどん欲が出てきて。いろいろ試行錯誤をして、そして自分たちの要求水準も高くなってきました。もともと記録の手間を減らすために始めたことなのに、気づいたらあれもこれも記録に時間をかけるようになってしまいました(笑)

本事業を終了して

今後の展望を教えてください。
まず、通年製造ができるようになったことで、「よりフレッシュなお酒を1年中お客様に届け続ける」ことを、先駆けてチャレンジしていきます。また1年を通して製造・出荷することで貯蔵スペースに余裕ができ、在庫コストやキャッシュフローの改善を見込んでいます。
DXについて、今年は製造部門を中心に進めましたが、今後は受発注や発送業務に広げていき、製造から発送まで一気通貫で管理できるような体制づくりを進めていきます。
このようなことは今まで選択肢にありませんでしたが、この1年間を通じて「できそうだ」と見えてきました。たとえば、Googleフォームを使うことで必要な情報の抜け漏れを防ぐことなどは、すぐに導入できそうです。
これからも酒造りの進化に挑戦し続けていきます。

現在デジタル化やDXへの取り組みに悩まれている企業様に対してメッセージをお願いします。
まずは、手元にあるスマホを有効活用して、お金をかけずに小さく始めてみる。それがおすすめです!
そしたら少し楽になって、楽しくなって、次のことがどんどんやりたくなっていきます!
そして、ほかの会社の事例も気になったりして・・・また「小さい会社だからこそ、取り組みやすい」というのはあると思います。今回、基山商店は製造の3名で始めましたが、小さいからこそできるDXがあるということが分かりました。これが50人も100人もいるような企業だったら、全然進まなかったと思うんですよ(笑)
いまAIが脚光を浴びていますが、今後はみんなで協力しながら醸造環境をアップデートし、すべての蔵の作り手が、最も重要である「酒造り」に集中し、全力投球できる環境づくりをできればと考えています。

DXアクセラレータからのコメント
基山商店のDX推進を伴走支援させていただき、多くの挑戦と成果を共に経験することができたことに、とても感謝しています。今回、社内の推進力がとても高く、訪問するたびに施策が進化していたのに驚きました。
個人的には、基山商店の日本酒が大好きで、我が家の冷蔵庫にはいつも必ずあります。また、地域の行事でも必ず振舞われるお酒。基山町民にとってなくてはならない存在の基山商店様の今後ますますの発展を確信しています。


(企業概要)
企業名:合資会社基山商店
住所:〒 841-0204 佐賀県三養基郡基山町大字宮浦151
事業内容:清酒製造

R6年度アクセラレータ事業受託会社:株式会社JICU 

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